聖雅学院の生徒達による、何気ない日常を綴った日誌です。
No.393
2009/07/01 (Wed) 12:33:25
…薔薇のトンネルを抜けると、あの場所に出るんだ…
そこには、天国のような、きらめく花畑が広がっていて、
黒い女の子と、白い男の子が、僕の事を待っている。
勉強が嫌いだった僕は、良く屋敷を抜け出して、彼女らに会いにいったっけ。
頭が悪くて、何時も人の顔色を見てへらへら笑っているだけの、無様な僕を、彼女らは心待ちにしてくれていたんだ。
……今日も、おやつのクッキーを3枚ポケットに忍ばせる。
薔薇のトンネルを抜ければ、そこに広がるのは僕達だけの秘密の楽園なんだ!!!
………
薔薇のトンネルを抜けると、そこには花畑が広がっている。
草の緑や花々の赤や黄色が、眩しく輝くその花畑。
これは、昔に戻ったのか……
ならば…目の前に居る、あの子供らは…
オッドアイの少年
「さぁさぁ!今からこの1つしかないクッキーを、魔法のハンカチーフにて、増やして差し上げましょう!」
黒い少女
「わくわくわく…!!!」
白い少年
「……(どきどきどき!!!)」
オッドアイの少年が手に持つクッキーを見つめる観客は2人。
少年はポケットから真っ白なレースのハンカチを取り出すと、ふわりとクッキーを掴む手を隠すように、それを覆い被せる。
そして、呪文を唱えるように意味不明な言葉を呟き続ける、オッドアイの少年。
それが酷くユーモラスな口調で、目の前の観客達は、くすくすと笑みをこぼすのだった。
そうしているうちに、少年はぴたりとハンカチの下で動かしていた手を止める。
一瞬の沈黙。
観客が、ごくりとつばを飲む。
オッドアイの少年
「はい!!!」
少年が、ハンカチを大きくはためかせ空にほおり投げた。
すると、ハンカチの中から現れた少年の掌には、抱えきれないほどのクッキーや飴玉が、握られていた。
黒い少女
「すごーーーーーい!!!凄い凄い凄い!!!♪」
白い少年
「…わぁ…(目キラキラキラ)」
目を輝かせ、喜ぶ2人の観客に、満足そうに笑みを浮かべるオッドアイの少年。
オッドアイの少年
「じゃあ、お菓子が沢山出てきたところで、ティータイムにするとしましょうか?(にこ)」
空に投げたハンカチのを広げ、その上に、手の中から現れた、抱えきれないお菓子を広げ、楽しそうに微笑みあう3人の子供達。
その姿を遠めで見ていた俺は、思わず小さく苦笑する。
そうか……
俺はあんなに手品が下手くそだったのか……
目の前で繰り広げられたショーの出来栄えに、恥かしさすら覚える…。
子供の目は騙せるのかも知れないが、自分から見たら、タネも仕掛けもバレバレだった…。
飴玉が1つ、ポケットから零れたのも見えた。
あんなショーでも、目の前の観客はあんなに喜んでくれていたのだな…
思わず目を伏せ、感傷に浸るように、思いを馳せる…。
その時だった。
子供らが、俺の存在に気がついたようだ…。
慌てて身を寄せる3人。
オッドアイの少年…幼少の自分は、かばうように他の2人の前に出てきたが、どんどんと後ずさりをしている。
…見ず知らずの俺の事怖いが、2人の手前格好はつけたいようだ…
……なんとも格好悪い…(苦笑)
黒い少女
「貴方、誰…???」
一番初めに口を開いたのは、紅一点の黒い少女だった。
オッドアイの少年
「ジュ…ジュノ!(汗)むやみに話かけたら危ないよ!!(汗あせ)」
黒い少女
「でも…あ、あの人ロイと一緒でオッドアイよ!色も一緒ね」
少女は、俺を指差す。
ロイ…オッドアイの少年と俺が、同じ目の色なのを、不思議に思った様子だった。
オッドアイの少年
「そ、そうだね…(汗)でも、あまり知らない人には話しかけない方が…(汗あせ)」
黒い少女
「ロイと一緒の綺麗な目だもの。きっと悪い人じゃないわ。
ユニファイもそう思うでしょ?」
白い少年
「……(黒い少女を見た後、カワドを見る)」
ユニファイと呼ばれた、この中で一番幼いであろう白い少年は、黒い少女の後ろからこちらを見つめる。
彼女が言うように、白い少年は、こちらを悪い人間と判断していないようだ…。アメジストの瞳は怯えた色をしていない…。
元々彼は人見知りだったし、物静かだったから、何を言うでもなかったが…
黒い少女
「ねぇ、貴方はだぁれ?何処から来たの???」
オッドアイの少年
「ジュノ…!!!(汗汗あせ!)」
黒い少女…ジュノの問いかけと、腰がひけまくっている情けないオッドアイの少年…自分の態度に、思わず苦笑する。
自分は誰か…???
そうだな……
カワド
「俺は、時空を越えてきた異世界の旅人…。
家に帰りたいのだが道がわからない…。
誰か、カードを持ってやしないか???
それがあれば帰れるんだが…」
自己紹介のついでに、丁寧にお辞儀をすると、3人はつられたように丁寧にお辞儀を返す。
そして、3人はひそひそと話し合い、キョロキョロあたりを見回そだそた。
しばしそうしているうちに、たまたまポケットに手を入れた少年の自分が、驚いたように声を上げる。
オッドアイの少年
「いつの間にか、カードがポケットに…!!!」
驚愕の出来事に目を白黒させる。
驚きすぎて、いつか腰でもぬかしそうである…(苦笑)
カードを発見し、ジュノは嬉しそうに微笑むと、少年の俺からカードを受け取り、今の俺の元へ持ってきてくれた。
黒い少女
「はいどうぞ。このカードかしら。
無事にお家に帰れそうで、良かった!」
嬉しそうに微笑をくれるジュノ。
それが眩しくて、思わず目を細める。
カワド
「ああ…有難う…これで帰れる……」
黒い少女
「はい!長旅できっと、疲れてるでしょう?
この飴、1つあげる!!!ロイが魔法で増やしてくれた、魔法の飴玉よ!これを食べたら元気になるわよ!(にこ)」
ジュノが、明るい笑顔と共に、手を差し出す。
そこには、小さな飴玉が1つのっている。
優しいジュノ…。
懐かしくて、胸が締め付けられるような気がした…。
小さなジュノの掌から、飴玉を受け取る。
カワド
「有難う…これで旅の疲れも癒えそうだ…(微笑)
……お別れに、俺から出来るせめてものプレゼントを……」
今受け取った、飴玉を空に投げる。
高く宙を舞う飴玉。
それに被せるように、素早く脱いだ上着を空にはためかせてみせる。
すると、輝くように、空から無数の飴玉が降り注いできた。
3人
「わあああぁぁぁぁ……!!!」
子供達が、感嘆の声を上げ、空を仰ぐ。
どうだ…?
今の俺の手品も、少しは喜んでもらえただろうか…(笑)
ジュノから貰った飴玉が、手の中に落ちてくる。
それを口に含み、3人の様子を眺める。
3人は「飴の雨」に、酷く喜んでいるようだった。
はしゃいで、騒いで、微笑みあう。
それは、幸せな光景……
………
俺は、そのまま姿を消し、学院へと帰り着く。
良い夢を見たような気分だった…。
幸せなような、胸が苦しいような…
不思議な感覚…
そう、それは、
今口の中にある、飴玉の淡い甘みのような……
………
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